勝負の駆け引き

陸上競技は、トラックレースではより速い選手が、投擲競技ではより遠くへ投げられる選手が、そして跳躍競技ではより遠くへまたはより高く跳べる選手が勝つという、非常にシンプルな競技だ。

しかし、陸上競技の勝ち負けは決して素質や自己ベストで決まるものではない。

先日の日本選手権男子100m決勝のレースは大いに注目された。今シーズン日本記録を樹立した山縣選手を始め、10秒の壁を突破している選手が過去最多となるレースであったからだ。

そんな中、優勝したのは日本記録保持者の山縣選手でも9秒台のベストを持つ他の選手でもなく、スタートを得意としている多田選手だった。

解説の高平さんも「レース中盤の多田選手のリードに周りの選手が硬くなっていた」と振り返るこのレース。

オリンピック代表選考というプレッシャーやレース展開など、調子以外の様々な要因によって勝敗が決まったことを感じさせられる。

今回はそんな勝負の奥深さを、本日リクスパートが挑んだ岐阜県選手権リレーの結果や、私の経験を踏まえて執筆したので読んでもらいたい。

〈岐阜県選手権リレー〉

8月に長野県で開催される東海選手権への出場権(タイムどりで決勝への進出が条件)を目指し、リクスパートからは中学生でメンバー構成された女子リレーチームが4×100mリレーに出場。

クラブのベスト(本日と同メンバー)は、6月6日西濃選手権決勝で記録した50秒91。

例年の予選通過ラインや今大会のレベルからしても、リクスパートが決勝に残るには、高校生や大学・一般のチームが出場する朝一の予選でチームベストをねらうことが要求される。

こういった状況の勝負では駆け引きが必要だ。
朝一の選手の調子、気温や風といったグランドコンディションなどを踏まえて走順やバトンワークの距離を調整しなければならない。

ギリギリを攻めればその分、バトンが合わなくなるリスクは大きくなる。けれども勝つか負けるかの勝負どころではそんなリスクを負う必要がある。
例えば、「2走–3走間は通常18足だけど、バックストレートが追い風で2走も調子が良さそうだから20足に広げたバトンワークで勝負だ!」とった具合に。

リクスパートは今回、そういった駆け引きの中、オーバーゾーンで失格した。

決勝進出は50秒42までだったため結果的に必要な駆け引きではあったが、
今大会においてはこのような

駆け引きを結果に繋げるだけの経験と純粋な力が足りなかった

と振り返る。

〈陸上競技の強者〉

結論を言うと、陸上競技の強者とは、

「勝負の駆け引きにリスクを負う必要がないレベル」の選手

または、

「勝負の駆け引きに負うリスクに打ち勝てる」選手

のことを言うのだと思う。

前者について言えば、単純に圧倒的な記録を持つ実力者であるが、
後者について言えば、大会のレベル・グランドコンディション・勝負どころに応じて、リスクを負うか安全に勝負するかを判断する力や、リスクを負った中で失敗せずに結果を出す力も“強さ”と言えるだろう。

例えば、走幅跳の「踏切板を超えての跳躍は記録が残らず(ファール)、また記録は踏切板の先端からの測定となる」というルールは、勝負の駆け引きとなる要素の一つだ。

優に決勝へ残れるレベルならばファールのリスクを負う必要はなく、1本目から確実に記録を残しにいくべきだ。それこそ「踏切板を踏まなくてもいい」と考えながら、助走の距離や速度、動きなどをコントロールして安全に記録を残しにいく(それでもなぜか踏切板上で踏み切ろうとして2本目までファールをする選手は、板に乗らないと損だという価値観が染み付いていると思う)。

逆に、決勝に残れる可能性が低ければ、予選3本中の1本でも「ファールギリギリの踏切で最高の跳躍」が出ればいいと、記録なし(3本ともファール)となるリスクを負ってでも勝負に出なくてはならない。そして風も運も味方にただ一発をモノにできる者が強者となれるだろう。

私は全日本レベルでは勝てなかった選手なので、全日本クラスの試合では博打のような跳躍で予選3本を試技しなくてはならなかった。対して、毎度全日本の決勝に名を連ねる実力者たちは、1本目からそこそこの記録を出して確実に決勝に進み、大一番の勝負で勝利していく・・・。
そんな全日本クラスの戦いを何度も繰り返して気づいた。
「踏切板に乗らなくても決勝に残るレベルでなければ、そもそも勝負の土俵に立てていないんだ。勝機のうすい選手は、勝てる可能性に賭けてリスクを負うしかない。そんな選手は、たまたま運よくしか勝てないのだ。」と。

走幅跳の強者は、「確実に記録を残す跳躍」と「一発大きな記録をねらう跳躍」のそれぞれの跳躍を持っていて、助走距離や力の出し方、動きなどを大会のレベルや状況(試合展開)によって使い分けている。
勝つためには、遠くへ跳べる力だけでなく、そういった駆け引きも必要だ。

とはいえ陸上競技では、そのような駆け引き以前に体力や技術を改善しなくては強くなれない。これはこの競技の真理だ。
より速く走る、より遠くへ投げる、より遠くへまたはより高く跳ぶために必要な身体や動きを手に入れた者がこの競技の強者だ。

その上で、「勝てる可能性を見出す」あるいは「負けない勝負で確実に勝つ」ための勝負の駆け引きが必要だと思う。

大事な勝負に向けてどんなことに取り組んでいくのか。強くなる方法を、駆け引きの面からも考えてみてはいかがだろう?

〈クラブユニホームお披露目〉

クラブカラーの「リクスパートブルー」をベースに黒のジオメトリック柄で、セパレートとランニングシャツの両タイプをデザインしています(クラブエンブレムのプリントは間に合いませんでした)。
選手からは「かっこいい!」と好評いただきました!
中には、試合が待ちきれず前日にユニホーム姿で夕食を摂るほど気にいってくれた選手もいたとか(笑)
選手が喜んでくれたことに、コーチ一同、大変嬉しく思います。
男子ユニは7月に納期の予定ですのでお楽しみに!


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