走幅跳の真理

 

「バスケのダンクシュートを決めるイメージで踏み切ったんだ」

1991年8月30日の東京世界陸上男子走幅跳にて、当時65連勝中だったカール・ルイスを下す未だ不滅の世界記録8m95を跳んだマイク・パウエル氏は、その時の感覚をこのように振り返った。

世界記録保持者のイメージを聞くと、走幅跳の踏切は「 “上に” 跳びあがる意識」が大事だと感じますが実際には・・・

「“上に” 跳びあがる意識」が記録を低下させる原因になるかも!?

今回は、私が18年間走幅跳に取り組む中でたどり着いた <走幅跳の真理> の一つ、「 “上に” 跳び上がる意識」と「 “前に” 跳びだす意識」の話です。

少し難しいところがあるかもしれませんが是非、最後までお付き合いください。

< 走幅跳の真理 >

走幅跳は跳んだ距離を競います。(それゆえ、跳んだ高さを競う走高跳・棒高跳を “垂直” と呼ぶのに対し、走幅跳は “水平” と呼称されます。)

その距離は、踏切直後の「水平速度(“前に” 進む速度)」と「鉛直速度(“上に” 浮く速度)」によって決まるので、速いスピードで高く跳びあがる踏切が理想です。

物理的な理想を言えば、トップスピードのまま45°で跳びだすと最も遠くへ跳べるのですが、

全く助走スピードを失うことなく高く跳びあがるのは不可能です!

高く跳びあがるために、助走スピードをどれだけか高さへ変えること[速さと高さのトレードオフ]が必要で、

より高く跳び上がるには、その分、踏切では大きく減速することになります。

この[速さと高さのトレードオフ]のバランスは、選手がもつスピードやパワーの高さによって調整するべきなのですが、技術を課題にし始める中級者から上級者にかけて、

「“上に” 跳びあがる意識」の 負の連鎖にハマっていく選手が多い

と私は感じています。

「“上に” 跳び上がる意識」の 負の連鎖は、様々な心理的原因から誘発される動作によって、結果的に助走スピードを大きく減速させてしまうというものです。

私は今まで「意識を変えれば、本当はもっと跳べるのになぁ。」と感じる選手を何人も見てきました。

(下図は、悪い意識や動作であるということではなく、私がよく目にする [速さと高さのトレードオフ]が選手の能力とかみ合っていない場合の例です。)

このような負の連鎖を打開する、つまり多くの選手が走幅跳で優先するべきは、助走から踏切にかけて「 “前に” 跳びだす意識」をもつことです。

また、「“前に” 跳びだす意識」をもつ上で課題となるのは、下の①と②の課題になります。

①高い助走スピード

②助走スピードの減速を抑える踏切

①については、走幅跳の助走で最大(最高)疾走速度に近いスピードをだせるかが重要です。砂場の向こうまで走り抜ける意識をもって助走する必要があります。

また②については、「上体が後傾しない」ことと「リード脚の振り上げが遅れない」ことが重要です。この①と②ができない心理(知覚)的な原因は「 “上に” 跳びあがる意識」の他にいくつかあります。
(①と②の練習ポイントは、直接の指導でしか正しく伝えられないと思うので割愛します)

クリック/タップで画像拡大

「 “前に” 跳びだす意識」が多くの走幅跳選手が優先するべきだと説明してきましたが、筆者の経験から主観的には、
初心者からある一定レベルの上級者(男子で言うと、走幅跳で7m超、100mで11秒前半程度)までは、「 “前に” 跳びだす意識」を優先してもいいのかなと思っています。

この課題をそこそこにクリアすることができれば、下のグラフのGoodに示したように100mのタイム通りの跳躍距離がでるかもしれませんね。

※スプリント能力を助走に活かせられている選手を「Good」、平均的な選手を「Ave」、活かせられていない選手を「Bad」としている
例えば、MENのGoodは、100mが10.94秒ならば走幅跳で7.60m跳べる理論になる(私のベストは100mが10.92秒で走幅跳が7.62m)

(Kumano et al.,2020を参考に作成)

少し難しい話もあったかもしれませんが、私は走幅跳を非常にシンプルにとらえており、
私が考える真理の下には、小学生から7mを超える選手まで、みな同じく「速い助走」と「減速を少なくする踏切」の二つが課題となり、ほとんどの練習はその課題を達成するための “手段” となります。

リクスパートでは、スプリントだけでなく走幅跳(跳躍種目)の大幅ベスト更新もサポートします!

今後の活動にも是非ご注目下さい。



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