走幅跳の真理2 〜目に見えない意識の世界とパフォーマンス〜

<潜在意識と知覚がパフォーマンスを低下させる>

人間のもつ心理能力はとても本能的で、時に理性や思考能力をも上回って、スポーツパフォーマンスに悪影響を与えることがあります。

簡単に言うと、「こんな動きがしたい」というイメージ通りに身体が動かせなくなるシステムが存在するのです。

今回は人間がもつ心理能力に関して、【潜在意識】と【知覚】が走幅跳のパフォーマンスを低下させる現象について紹介します。

まずは【潜在意識】と【知覚】についての説明をしましょう。

【潜在意識】とは自覚していない意識、つまり無意識のことを指します。潜在意識は感情や考え方、価値観なども含んでいます。例えば、「〇〇はこういうものだ」といった思い込みや、「〇〇は嫌いだ」という感情など、言葉にしたりハッキリと思い浮かべたりしていない無自覚的にある意識のことを言います。

【知覚】とは感覚器官からの情報(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、皮膚感覚)によって環境や自分の状態を把握する機能を指します。例えば、視覚の情報から、自分と物との距離を把握したり、走っている時の皮膚感覚で感じる風や、視覚で捉える景色の移動によって速度を把握したりするなどが挙げられます。

次に、走幅跳において[踏切手前から踏切局面における助走スピードの減速]を引き起こす【潜在意識】と【知覚】を2セットにまとめました。

①踏切位置に関する【潜在意識】と踏切板までの距離に関する【知覚】

②踏切時の力発揮に関する【潜在意識】と助走速度に関する【知覚】

ここで【潜在意識】と【知覚】をセットにしたのは、【潜在意識】があることによって、【知覚】が[助走スピードの減速]を引き起こすからです。まずは①と②の原理についてそれぞれ説明していきます。

①踏切位置に関する【潜在意識】と踏切板までの距離に関する【知覚】

走幅跳は、踏切板の先端から着地位置までを測定するルールがあり、長さ20cmの板を少しでも超え緑のファール板に足がかかってしまった跳躍はファール(記録なし)となります。つまり、ファールにならないギリギリのライン(踏切板とファール板の境目)で踏み切ることがルール上、最も合理的であり、多くの選手ができるだけギリギリのラインで跳躍したいと思うことでしょう。しかし、この【潜在意識】が[助走スピードの減速]を引き起こしているのです。

走幅跳では、踏切板に接近するにつれて、踏切板までの距離感や助走のスピード感を元に歩幅の調整をしていくのですが、特に踏切2〜3歩前では板との距離を明確に意識する瞬間が生じます。「ギリギリのラインで跳躍したい」という【潜在意識】を持っていると、「板まで遠い」と【知覚】した影響で一気に上体が後傾してしまいます。この後傾によって身体の前方で踏切接地してしまい、スピードが著しく減速してしまうのです。

②踏切時の力発揮に関する【潜在意識】と助走速度に関する【知覚】

走幅跳は、踏切時に助走スピードをいくらか “上に” 跳び上がる力に変換することで身体を宙に浮かし跳躍距離を生み出しています。前回のコラムでは “上に” 跳び上がる意識の悪影響について紹介しましたが、 “上に” 跳び上がるために踏切脚で大きな力を出して踏み切ろうとする【潜在意識】が、助走スピードの減速につながっています。

①と同様に、踏切2〜3歩前の局面では、踏切動作を大きく意識する瞬間があり、この瞬間に助走の速度を【知覚】し、助走スピードに対応できる踏切動作を準備します。助走スピードが高いとそれだけ踏切で身体に大きな衝撃がかかることを脳は理解しているので、力強い踏切ができるスピードではない(速度が速い)と【知覚】した瞬間に、減速動作が生じてしまうのです。

まとめると、
①「踏切位置で損をしたくない」という【潜在意識】が、「踏切板までの距離が遠い」と【知覚】した時の減速動作を引き起こします。
また、
②「踏切脚で力強く踏切りたい」という【潜在意識】が、「力強い踏切を遂行できない助走速度」だと【知覚】した時の減速動作を引き起こしているのです。

ここで重要なのは、これらの【潜在意識】が【知覚】を生じさせているわけでも、【知覚】が減速を引き起こしているわけでもないということです。例えば、「踏切位置で損をしたくない」という【潜在意識】を持っていなくとも、「踏切板までの距離が遠い」という【知覚】は生まれます。あくまでも、「踏切位置で損をしたくない」という【潜在意識】を持っているからこそ「踏切板までの距離が遠い」と【知覚】した時に減速動作が起きてしまうのです。

つまり、「踏切板までの距離が遠い」と【知覚】しても、減速動作が起きないための、別の【潜在意識】を持つ必要があります。これについては次回に執筆したいと思います。

このような【潜在意識】と【知覚】がパフォーマンスを低下させるメカニズムは、走幅跳の経験が充実してきた中高生に多く見られるように思います。踏切板を踏まずに跳躍して「損をした」と感じた経験や、パワーがついて力強く踏み切れるようになってくること、トップアスリートのダイナミックな跳躍に憧れを持つようになる過程で、例に挙げたような【潜在意識】を持つようになります。前述した様に、【潜在意識】は無自覚な意識でありますが、意識に気づけても本質的に改善することは困難です。また、【知覚】については踏切前の一瞬に生じるものであるため、対策しにくい問題があります。今回紹介した様な【潜在意識】と【知覚】がもたらす悪影響はあらゆるスポーツで起こり得るので、見えないもの、気づきにくいものにフォーカスするという考え方は重要だと考えています。

次回は、今回例に挙げた様な【潜在意識】を本質的に改善する方法について紹介したいと思います。

前回の走幅跳の真理に関するコラムはこちら↓

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